

ローンの残ったマンション、相続する?
夫が亡くなった後に直面する問題の一つが、ローンの残ったマンションの扱いです。自宅であったマンションも、法律上は相続財産の一部であり、現金や預金と同じように「引き継ぐかどうか」を判断しなければならない対象になります。住み慣れた家であっても、感情だけで決めてしまうと後々の生活に大きな影響が出ることがあるため、慎重な検討が欠かせません。
相続するということは、建物そのものだけでなく、そこに付いている住宅ローンの支払義務も引き継ぐということを意味します。特に妻が無職であったり、パート収入や年金のみで生活している場合には、毎月の返済額が家計にどの程度の重みを持つのかを冷静に見極める必要があります。これまで夫の収入で回っていた家計が、そのまま維持できるとは限りません。
一方で、相続しないという選択をすれば、マンションに住み続けることはできなくなります。退去し、新たな住まいを確保する必要が生じ、引っ越し費用や新居の家賃、敷金礼金などの初期費用が発生します。高齢での住み替えは身体的・精神的な負担も小さくありません。
このように、ローン付マンションの相続は「住まいの問題」と「お金の問題」が密接に絡み合っています。そこで本稿では、この難しい判断に向き合うための考え方を順を追って整理していきます。
まずはローン残高と物件の査定額を確認する
最初に行うべきなのは、現実を数字で把握することです。感覚や希望ではなく、具体的な金額を知ることが判断の土台になります。まず確認すべきは住宅ローンの残高です。金融機関から送られてくる残高証明書や返済予定表を取り寄せ、現在いくらの債務が残っているのか、毎月いくら返済しているのか、完済まであと何年かかるのかを正確に把握します。ローン残高が大きければ大きいほど、相続後の負担は重くなります。
次に重要なのが、マンション自体の価格、つまり現在売却した場合にいくらになるのかという査定額です。これは机上の相場ではなく、不動産業者に実際に部屋を見てもらい、設備の状態や日当たり、階数、管理状況などを踏まえた現実的な査定を受けることが望ましいです。複数社に依頼すれば、より客観的な目安がつかめます。
ローン残高よりも物件価格のほうが高い場合、売却してローンを完済し、手元に残った差額を今後の生活費や引っ越し費用に充てるという選択も見えてきます。逆に、売ってもローンが残る状況であれば、負担の重さはより深刻です。
さらに、時間の経過も無視できません。建物は年々劣化し、市場価値は基本的に下がっていきます。将来、家族構成が変わったときにどの程度の価値が見込めるのか、ローン残高がどのように減っていくのかという推移も頭に入れておくことで、より現実的な判断材料が整います。数字を直視することが、感情に流されないための第一歩です。
引っ越しの見積もりをとる
マンションに住み続けるかどうかが確定していない段階では、「出ていく場合にいくらかかるのか」も具体的に把握しておく必要があります。住み続ける選択と比較するためには、引っ越しに関する費用をできるだけ細かく見積もることが大切です。
まず引っ越し業者への支払いです。荷物の量や移動距離、時期によって金額は大きく変わります。高齢者世帯では不用品処分や荷造り代行などの追加費用が発生することもあります。これに加え、新居の初期費用がかかります。賃貸住宅であれば敷金、礼金、仲介手数料、前家賃など、入居時にまとまった資金が必要です。
さらに重要なのが毎月の家賃です。住宅ローンと違い、家賃には「終わり」がありません。住み続ける限り支払いが続きます。今後の平均余命や健康状態を考えると、トータルでどれほどの支出になるかは決して小さな問題ではありません。
ここで比較すべきなのは、残りのローン総額と、引っ越し後に想定される住居費の総額です。ローンは一定期間で完済しますが、家賃は半永久的に続きます。残りのローン期間が短いのか長いのかによって、どちらの負担が重いかの結論は変わります。また、住み替え先の広さや立地を見直すことで家賃を抑える工夫も可能です。こうした現実的な数字を並べて比較することが、感情だけでは見えにくい差を明らかにしてくれます。
老後の資金計画を立てる
住み続けるにせよ、住み替えるにせよ、今後の生活はこれまで以上に「限られた収入の中でやりくりする」ことが前提になります。特に高齢期は収入の柱が年金のみというケースが多く、大きな固定費を抱えることの影響は非常に大きいです。そのため、住居に関する判断は単発の問題ではなく、老後全体の資金計画の中で位置づけて考える必要があります。
まずは現在の収入を整理します。公的年金の額、企業年金、パート収入、預貯金の取り崩し可能額などを洗い出し、毎月いくら使えるのかを把握します。そのうえで、住居費のほか、食費、光熱費、医療費、保険料、通信費などの支出を書き出します。こうして一覧にすることで、どこに無理があるのか、どの費目を見直す余地があるのかが見えてきます。
場合によっては、食費や娯楽費を抑えるだけでは足りず、親族からの援助や公的な支援制度の利用を検討しなければならないこともあります。自分だけで抱え込まず、現実的な選択肢を幅広く検討する姿勢が重要です。
こうした作業は精神的な負担も大きく、数字に不慣れな方にとっては難しく感じられることがあります。そのような場合には、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することも有効です。第三者の視点が入ることで、思い込みに気づいたり、見落としていた改善点が見つかったりします。長い老後を安定して過ごすための土台として、資金計画は避けて通れない作業です。
子どもは相続放棄も検討を
ローン付マンションの問題は、配偶者だけでなく子どもにも影響します。相続人が妻と子の両方である場合、法律上は子どもも父親の財産と債務を引き継ぐ立場にあります。つまり、マンションのローン債務も原則として相続の対象になります。実際の返済を母親が担うとしても、法的な責任の一端を負うことになる点は軽く考えられません。
もし返済が滞り、金融機関から請求が及ぶような事態になれば、子ども自身の生活にも深刻な影響が出る可能性があります。最悪の場合、自己破産を検討しなければならない状況に追い込まれることもあり得ます。自分は住んでいない不動産のために将来の信用を失うのは、非常に重いリスクです。
そこで選択肢として浮上するのが相続放棄です。家庭裁判所で手続を行い、父親の相続について一切の権利義務を引き継がないとする方法です。これにより、マンションもローンも母親単独で引き継ぐ形になります。住まない子どもにとっては、責任を明確に切り離す手段となります。
相続放棄をすると父親の財産は受け取れませんが、将来母親が亡くなった際の相続とは別問題です。その時点でマンションをどうするか、改めて判断する機会があります。現時点で無理に責任を背負わないことが、子ども自身の生活を守ることにもつながります。家族全体の将来を見据えたうえで、冷静な選択をすることが重要です。
まとめ
夫が残したローン付マンションの相続は、単なる不動産の問題ではなく、今後の生活設計そのものに直結する重大なテーマです。住み慣れた家を手放したくないという気持ちは自然ですが、感情だけで決めてしまうと後の負担が大きくなることがあります。
まず重要なのは、現実の数字を正確に知ることです。ローン残高と物件価格を把握し、どの程度の債務を背負うことになるのか、売却した場合にどのような結果になるのかを具体的に理解することが出発点になります。そのうえで、住み替えた場合の費用も含め、複数の選択肢を比較する姿勢が欠かせません。
さらに、その判断は単年の問題ではなく、老後全体の資金計画の中で考える必要があります。限られた収入の中で無理なく生活を続けられるのか、将来の医療費や突発的な支出にも耐えられるのかを見極める視点が大切です。
また、相続人が複数いる場合には、それぞれの立場にどのような責任が及ぶのかを理解し、家族全体で話し合うことが求められます。一人の判断で進めるのではなく、影響を受ける全員が納得できる形を目指すことが望ましいです。
難しい問題ではありますが、情報を集め、数字を確認し、順を追って考えていけば、感情に流されない現実的な結論に近づくことができます。生活を守るための選択であることを忘れず、慎重に向き合う姿勢が何より重要です。
当センターではCFP資格者が相続後の生活設計まで含めた相談対応を行っております。相続でお困りごとがありましたら是非、お気軽にご相談ください。