
親と疎遠にしている間に同居親族が遺産を独占していた
実家が遠方にある、仕事や家庭の事情で頻繁に帰省できない、親と価値観が合わず距離を置いていたなどの理由から、両親と疎遠な関係になっている人は決して少なくありません。連絡は年に数回、場合によっては年賀状程度という関係であっても、親子関係が消滅するわけではありません。しかし、その距離感が思わぬ形で問題となるのが相続の場面です。
親が亡くなり、最低限の義理として葬儀には参列したところ、そこで初めて「遺産はすべて同居していた兄(姉・弟・妹)が相続した」「既に手続は終わっている」と告げられるケースは珍しくありません。突然の話に驚き、悲しみの中で十分な説明もないまま話が進み、気がついたときには自分の取り分が事実上ゼロになっていたという相談は、専門家のもとに数多く寄せられています。
法律上、兄弟姉妹を含む一定の相続人には遺留分という最低限の取り分が保障されています。しかし、遺留分は法定相続分の半分程度にとどまることも多く、「それだけでは到底納得できない」「親の財産形成に自分も間接的に関わってきたのに不公平だ」と感じる人も少なくありません。そのため、遺留分の請求にとどまらず、より法定相続分に近い形での回復を目指して弁護士などの専門家に相談するケースが増えています。
相続財産は一括りに語られがちですが、実際には預貯金、保険、不動産、遺言書の存在など、財産の種類ごとに確認すべき点や対応方法は大きく異なります。独り占めされたように見える遺産も、内容を丁寧に分解して確認することで、取り戻せる余地が見えてくることがあります。まずは冷静に事実関係を把握し、どの財産がどのような経緯で取得されたのかを見極める姿勢が重要です。そこで本稿では財産別に、どのような手順で取り戻すかを解説します。
預貯金
同居親族が最も容易に取得しやすい遺産が、被相続人名義の預貯金です。現金に近く、管理もしやすいため、相続トラブルの中でも特に問題となることが多い財産類型といえます。親が高齢になり、判断能力や身体機能が低下してくると、「手続が大変だから」「本人が外出できないから」といった理由で、同居親族が預金の引き出しや振替を代行する場面が増えていきます。
こうした代行自体は直ちに違法となるわけではありませんが、そのまま引き出した金銭を自分の生活費や貯蓄に回してしまうケースも少なくありません。被相続人が亡くなった後に通帳を確認すると、亡くなる直前まで多額の出金が続いていた、あるいは特定の時期にまとまった金額が引き出されているといった不自然な履歴が見つかることもあります。
弁護士に依頼すれば、金融機関に対して取引履歴の開示を求めることが可能です。通常、数年分、場合によってはそれ以上の入出金履歴を確認することができ、誰が、いつ、どのような理由で資金を動かしたのかを客観的に把握できます。これにより、単なる生活費の立替なのか、それとも実質的な領得行為なのかを切り分けることができます。
不自然な出金が判明した場合、その使途について同居親族に説明を求めていくことになります。合理的な説明や証拠が示されない場合、使途不明金として返還請求の対象となる可能性があります。預貯金は証拠が比較的残りやすい財産である一方、感情的な対立が激化しやすい分野でもあるため、冷静な事実確認と専門家を通じた対応が重要となります。
生命保険
生命保険は相続財産の中でも特に扱いが難しい分野です。被相続人が加入していた生命保険について、受取人が同居親族に指定されている場合、他の相続人にとっては非常に不利な状況になります。なぜなら、生命保険金は原則として受取人固有の財産とされ、遺産分割の対象にならないからです。
その結果、遺言書がなくても、保険金だけは同居親族が全額取得するという事態が生じます。さらに厄介なのは、生命保険金が遺留分算定の基礎財産に含まれないケースも多く、単純に「最低限の取り分」として調整することが難しい点にあります。このため、保険の受取人が誰になっているかは、相続全体のバランスを大きく左右します。
重要なのは、受取人が同居親族に指定または変更された経緯です。契約当初からその指定であったのか、ある時点で変更されたのかによって、検討すべきポイントは変わります。特に、高齢になってから短期間のうちに受取人変更がなされている場合、その時点で被保険者に十分な判断能力があったかが問題となります。
受取人変更が偽造書類によって行われていたり、被保険者が意思無能力状態にあったと認められる場合には、その変更自体を無効と主張できる余地があります。医療記録、介護記録、周囲の証言などを丹念に集め、当時の状況を立体的に検討していくことが求められます。生命保険は書類一枚で結論が左右されることもあるため、慎重かつ継続的な調査が不可欠です。
不動産
実家などの不動産が、親の生前に同居親族へ移転されているケースは、相続トラブルの中でも特に深刻です。不動産は金額が大きいだけでなく、長年の生活の拠点であったことも多く、感情的な対立が激化しやすい財産です。相続発生後に名義を確認したところ、既に同居親族の単独名義になっていたという相談は少なくありません。
不動産が移転されている場合、最初に行うべきは登記簿謄本の取得です。登記簿には、いつ、どのような原因で所有権が移転したのかが必ず記載されています。原因として多いのは売買、贈与、あるいは相続ですが、生前に移転されている場合は売買か贈与であることがほとんどです。この「原因」を正確に把握することが、問題解決の出発点となります。
移転原因が売買とされている場合、次に確認すべきは売買代金の実態です。契約書上は一定の金額が記載されていても、実際には代金が支払われていない、あるいは極端に低額であるケースもあります。被相続人の預貯金口座の動きを調査し、代金が入金されているかどうかを確認することが重要です。入金の形跡がない場合、名目上は売買でも、実質的には無償移転であった可能性が浮かび上がります。
さらに、売買契約時に売主である親に十分な判断能力があったかも重要な検討要素です。高齢や病気により判断能力が低下していた場合、契約自体の有効性が問題となります。当時の医療記録、介護サービスの利用状況、周囲の証言などを総合的に検討し、売買が本人の真意に基づくものであったかを検証していく必要があります。
一方、移転原因が贈与とされている場合には、贈与税の申告と納税が行われているかを必ず確認すべきです。高額な不動産の贈与であれば、多額の贈与税が発生します。これが全く納税されていない場合、形式だけ贈与とされている可能性があり、実態との乖離が疑われます。不動産の移転は一見すると覆しにくいように思われがちですが、資料を積み上げることで法的に争える余地が見えてくる分野でもあります。
遺言の有効性
遺産をすべて同居親族に相続させるという内容の遺言書が存在する場合、他の相続人にとっては極めて不利な状況に置かれます。しかし、遺言書が存在するという事実だけで、すべてを受け入れなければならないわけではありません。まず冷静に、その遺言が法律上有効なものかどうかを検討する必要があります。
最初に確認すべきは、遺言書が法律で定められた方式に従って作成されているかです。自筆証書遺言であれば、全文が本人の自書であること、日付と署名押印があることが求められます。これらの要件を一つでも欠くと、遺言全体が無効となる可能性があります。また、公正証書遺言であっても、作成手続に不備がないかを確認する必要があります。
次に重要なのが、遺言作成時の判断能力です。遺言は単なる意思表示ではなく、財産の帰属を決定する高度な法律行為です。そのため、内容を理解し、自らの意思として判断できる能力が不可欠とされます。認知症の進行、重い疾病、薬の影響などにより判断能力が低下していた場合、その遺言が有効かどうかが争点となります。
判断能力の有無を検討する際には、遺言書の文面そのものも重要な手がかりとなります。内容が極端に単純である、不自然な表現がある、特定の人物だけを過度に優遇しているなどの場合、作成時の状況を慎重に見極める必要があります。加えて、医療記録、介護記録、周囲の人の証言などを収集し、当時の生活状況を立体的に把握していきます。
遺言の有効性を争うには時間と労力がかかりますが、形式や判断能力に疑問がある場合、安易に諦めるべきではありません。また、こうした問題が生じやすい背景として、親の生活状況や意思能力の変化を把握できていなかったことが挙げられます。遺産を巡る紛争を回避するためにも、生前から完全に関係を断つのではなく、最低限の接点を保ち、状況を把握しておくことの重要性が浮き彫りになります。
まとめ
親と疎遠な関係にある中で相続が発生し、同居していた親族が遺産を事実上独占していたと知ったとき、多くの人は強い無力感や諦めの気持ちを抱きがちです。しかし、相続の場面では、見た目の結果だけで結論を出すべきではありません。重要なのは、どの財産が、どのような経緯で、どの時点において取得されたのかという事実関係を一つひとつ確認することです。
相続問題は感情が先行しやすく、親族間の対立も激しくなりがちですが、法的な視点に立てば冷静に整理できる論点が数多く存在します。預貯金の出入金履歴、保険契約の内容、不動産の登記原因、遺言書の形式や作成状況など、確認すべき資料は多岐にわたりますが、これらを積み重ねることで初めて全体像が見えてきます。
また、同居親族がすべてを取得しているように見える場合であっても、それが常に正当な結果であるとは限りません。長年の同居や介護といった事情があったとしても、法律上の手続や判断能力の有無が軽視されることはありません。権利が侵害されている可能性がある以上、感情的に距離を置くのではなく、事実と証拠に基づいて向き合う姿勢が求められます。
相続において後悔を残さないためには、問題が顕在化してから慌てて動くのではなく、冷静に専門家の助言を受けながら対応することが重要です。独り占めされたように見える遺産であっても、適切な手順を踏めば、正当な取り分を取り戻せる可能性は決して低くありません。相続は過去を責める場ではなく、権利を正しく整理する場であるという認識を持つことが、最終的な解決への第一歩となります。
当センターではこうした遺産分割トラブルを多数解決してきました。相続のお悩み事がありましたらお気軽に当センターにご相談ください。