

疎遠な親族の相続が発生。どうする?
疎遠になっていた親族の相続が突然発生すると、多くの人は戸惑いを覚えます。遠方に住んでいるきょうだいであったり、離婚後に音信不通となっていた父親であったり、長年まったく関わりのなかった相手の相続が発生すると、状況を把握できないまま判断を迫られることになります。とくに、被相続人の生活状況がわからない場合や、財産の内容をまったく知らない場合には、「相続したほうが得なのか」「放棄したほうが安全なのか」という基本的な判断すら難しく感じられます。相続と聞けば、一般的にはプラスの財産が受け継がれるイメージがありますが、実際には負債も含めてすべて承継するため、状況が見えないまま相続を受けるのは非常に危険です。とくに、遠方の不動産の管理義務や、被相続人が残した借金が発覚するリスクを考えると、慎重な判断が求められます。
その一方で、財産がある程度残っている場合には相続したほうがよいケースもあり、無条件に放棄するのが正解というわけでもありません。つまり、損得勘定の問題ではなく、「情報が圧倒的に不足した状態で大きな決断をしなければならない」という点にこそ悩ましさがあります。しかも、相続放棄には期限があるため、迷っている間にも時間は過ぎていきます。このため、多くの人が焦りや不安を感じながら判断せざるを得ない状況に陥ります。
こうした状況で冷静に判断するためには、まず「自分がどこまで状況を知っているのか」を自覚し、「わからない部分を適切に調査する」というプロセスを踏むことが不可欠です。そこで本稿では、疎遠な親族の相続が発生した際に「相続すべきか、それとも放棄すべきか」を判断するために行うべき調査や注意点について、順を追って解説していきます。相続に関する知識がない方でも理解できるよう、できるだけわかりやすく整理しています。不安を抱えたまま判断するのではなく、事実に基づいて冷静に選択できるように、重要な視点を丁寧に取り上げていきます。
まずはできる範囲で調査
疎遠な親族の相続が発生した場合、現状把握の第一歩として、被相続人の最後の住所地を直接訪れることが重要です。遠方であっても、現地に行かなければわからない情報が多く、郵便物や生活の痕跡を確認するだけでも、財産状況に関するさまざまな手がかりが得られます。とくに郵便受けに残された督促状、銀行や保険会社からの通知、公共料金の請求書などは、資産と負債の両面を推測する上で有用です。銀行の通帳が残されていれば、入出金の状況から生活水準や資産の有無がある程度把握できます。銀行残高が一定程度あるなら安心材料になりますし、残高がほとんどない場合は生活に余裕がなかったことが伺えます。
室内に生活の痕跡がどれほど残っているかも重要な情報です。家電や家具が整っているかどうか、部屋が荒れていないか、家賃滞納の貼り紙がないかなど、日常生活の状況を確認することで、被相続人が抱えていた経済状態がある程度推測できます。また、固定資産税の納税通知書が残っていれば、土地や建物などの不動産を所有していた可能性が高まります。これらの書類は相続判断において非常に重要な材料となります。
さらに、近所の住民や大家、長年交流のあった親族がいれば、聞き取り調査を行うことも有効です。生活ぶり、収入の状況、人間関係、トラブルの有無など、書類だけではわからない情報を得られる場合があります。とくに、孤独死などの場合には誰も状況を把握していないことが多いですが、近隣の住民が最後の様子を知っているケースは決して少なくありません。こうした聞き取り情報は、判断を大きく左右することもあります。
もちろん、現地調査を行うこと自体が負担であり、遠距離の場合には時間や費用もかかります。しかし、相続放棄の期限内にできる限り情報を集めなければ、適切な判断はできません。相続が発生したという連絡を受けただけでは、資産と負債のどちらが多いかを判断することはほぼ不可能です。最初の一歩は、書類や生活状況といった基本的な情報収集から始まります。これらの情報を積み重ねることで、次に判断すべき負債の有無や相続放棄の必要性が徐々に見えてきます。
負債の有無はある程度調査できる
相続において最も警戒すべきは、負債超過の状態で相続してしまうことです。プラスの財産よりも借金のほうが多い場合、相続人はその差額を背負うことになります。このため、負債の有無は必ず確認しなければなりません。とくに公的な金融機関からの借り入れについては、信用情報機関に対して信用情報開示請求を行うことで確認できます。被相続人の氏名や生年月日などをもとに開示請求を行えば、銀行や消費者金融からの借り入れ状況が把握できるため、明確な判断材料となります。
もっとも、この方法で把握できるのはあくまで「信用情報機関に登録されている借金」に限られます。飲食店や病院のツケ、親族や知人からの個人的な借り入れ、家賃の滞納、自治体からの未納分など、信用情報機関に記録されない負債については完全に調査することはできません。このため、信用情報開示だけで「負債はゼロ」と判断するのは早計です。他の資料と照らし合わせて慎重に判断する必要があります。
一方、資産については網羅的に調査することが難しく、書類の有無に大きく左右されます。銀行通帳や定期預金証書が見つからなければ、預金を把握することは困難です。不動産についても、固定資産税の納税通知書がなければ所有の有無を判断しにくい場合があります。つまり、調査できる範囲は限られており、情報が揃わないまま判断を迫られるケースも少なくありません。
そのため、相続放棄の期限である「相続の開始を知ったときから3か月」は非常に重要です。早期に調査を開始すれば、信用情報機関への開示請求も間に合い、負債の有無をある程度把握できます。しかし、期限が迫ってから調査を始めると、書類の収集や開示請求の手続きが間に合わず、不明なまま判断しなければならない事態に陥る可能性があります。相続の連絡を受けたら、まずは「負債を調べる」という方針を持ち、可能な限り早めに動くことが求められます。
疑わしきは放棄だが・・
負債の有無がはっきりしない場合、一般的には相続放棄を選ぶのが無難です。不明なまま相続してしまうと、後から予期せぬ借金が判明し、その支払い義務を負うことになるからです。また、借金がなくても、山林や農地といった管理や処分が困難な財産が含まれている場合には、相続したことで日常的な負担を抱え込むリスクもあります。遠方の土地であれば、管理に行くだけでも大きな労力を必要とし、売却しようにも買い手がつかないケースは多くあります。懸念材料が多い相続は、負債の有無とは別に放棄を選ぶ価値があります。
しかし、遠方の親戚の相続で弁護士を通じて連絡が来た場合には、事情がやや異なることがあります。弁護士がわざわざ相続人に連絡するということは、相応の遺産がある可能性があるからです。遺産分割協議を進めるために相続人を確定させる必要があり、そのための連絡である場合には、一定の財産が見込めるケースがあります。こうした場合に、状況を理解しないまま早々に相続放棄を選ぶのは得策ではありません。まずは弁護士から遺産の内容の説明を受け、判断に必要な情報を丁寧に確認することが重要です。
もちろん、弁護士から連絡が来たからといって必ずしも多額の遺産があるとは限りません。遺産の種類や価値はケースごとに異なり、期待しすぎるのも危険です。重要なのは、状況を正確に把握するために説明を求める姿勢を忘れないことです。また、思わぬ価値のある財産が存在する可能性もあるため、疑わしい状況でも情報収集を尽くしてから結論を出すべきです。
相続放棄は非常に強力な手続きで、一度受理されると原則として撤回はできません。そのため、判断に迷う状況こそ慎重な対応が求められます。情報不足だから不安という理由だけで放棄するのではなく、調査できる範囲はすべて調査し、必要な説明は必ず受け、自分自身が納得できる形で最終判断を下すことが大切です。
相続放棄の仕方
相続放棄をする場合には、法律に基づいた手続きを正式に行う必要があります。まず、相続放棄は「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」に申し立てます。申し立て期限は「相続の開始を知ったときから3か月以内」であり、期限を過ぎると原則として相続したものとみなされてしまいます。この期限は非常に厳格であり、調査に時間がかかるからといって延長されるわけではありません。
相続放棄に必要な書類は多く、短期間で準備しなければなりません。被相続人の除籍謄本、改製原戸籍、住民票の除票など、戸籍関係の書類を複数取り寄せる必要があります。さらに相続人自身の戸籍謄本も必要です。これらの書類は本籍地の自治体で取得するものもあり、遠方の場合には郵送請求が必要となるため時間がかかります。計画的に早めに動かなければ、期限に間に合わないリスクがあります。
申し立てには収入印紙800円と、裁判所からの返送用の110円切手を数枚同封します。手続き自体は難しくありませんが、記載内容に誤りがある場合には家庭裁判所から補正を求められることがあります。このため、可能であれば郵送ではなく、家庭裁判所に直接持参するほうが望ましいといえます。窓口でその場で内容を確認してもらえるため、修正が必要な場合に即時対応でき、手続きがスムーズに進みます。
相続放棄は形式的な手続きではなく、相続人としての権利と義務を完全に失う重大な判断です。放棄すれば借金を背負わずに済むメリットがありますが、将来的に価値のある財産が見つかった場合でも受け取れなくなるというデメリットもあります。相続放棄を選択する際には、調査結果を踏まえ、必要書類を整え、慎重に判断する姿勢が求められます。
まとめ
疎遠な親族の相続は、情報が圧倒的に不足した状態で判断を迫られるため、多くの人が不安を抱えます。しかし、不安のまま行動するのではなく、調査できる範囲で情報を集め、事実に基づいて冷静に判断する姿勢が重要です。相続は財産の承継という側面だけでなく、負債の承継や不動産管理の負担といったリスクも含まれています。とくに、被相続人との関係が疎遠である場合には、生活状況や経済状況が見えづらく、判断の難易度が高まります。
こうした状況で大切なのは、まず現地調査を行い、郵便物や通帳、生活の痕跡などから基本的な情報を把握することです。加えて、公的な負債については信用情報開示請求により確認できます。すべての負債を把握できるわけではありませんが、調査を始めることで状況が徐々に見えてきます。
相続放棄の判断は負債の有無だけでなく、遠方の不動産の管理負担など、将来的なリスクを考慮することも不可欠です。逆に、弁護士から連絡がある場合には、一定の財産がある可能性もあるため、安易に放棄せず説明を求めることが重要です。いずれにせよ、情報収集を尽くし、自分自身が納得した形で判断することが後悔を避ける最大のポイントとなります。
相続放棄は家庭裁判所で行う正式な手続きであり、期限も厳格です。必要書類も多いため、早めに準備しなければなりません。相続の連絡を受けた段階で、早期に検討と調査を開始することが、最も適切な判断を導くための基本的なステップです。未知の相続に不安を覚えるのは当然ですが、手順を踏んで情報を集めれば、冷静な判断ができるようになります。疎遠な親族の相続であっても、焦らず確実に状況を見極めることで、負担のない適切な選択を取ることができます。
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