

戸籍を取得してみるとあらびっくり
親族が亡くなり、葬儀や諸手続が落ち着くと、遺産分割のために戸籍を収集する作業が始まります。戸籍は被相続人の出生時点まで遡る必要があり、それにより家族の全貌が明らかになります。ここで、家族として認識していなかった人物が戸籍上に現れることがあります。例えば、長年連れ添った配偶者の前婚の子がいたり、婚姻関係にない相手との間に認知した子が存在することが判明するケースです。こうした事実は、実務上も意外と多く、相続に携わる専門家の間では珍しい話ではありません。
しかし当事者としては、晴天の霹靂です。今まで知らなかった人物が法定相続人となり、こちらと同じ立場で遺産分割に参加することになるのです。「なぜ今」と感じるのは自然ですし、動揺や怒り、失望といった複雑な感情が湧くことも珍しくありません。特に家族関係が良好であった場合、こうした事実が家族の思い出に影を落とすこともあります。
それでも、法律上の相続人である以上、その存在を無視することはできません。不動産の名義変更や預貯金の払戻しなど、多くの手続でき全員の協力が不可欠です。避けようとしたり、排除しようとする態度を取ると、相続手続は停滞し、最終的には裁判所の手続を経ることになる可能性が高まります。
ただ、相手も同じように戸惑っている場合があります。自分がその家族にどのように受け止められるのか不安を抱え、連絡をためらうこともあります。「望まれざる相続人」という状況は、双方にとって重く繊細な問題です。
そこで本稿では、こうした相続人に対してどのようにアプローチし、円滑に手続きを進めるべきか、具体的な実務的手順と心構えを整理して紹介します。感情と法的手続の両面を踏まえ、どのようにすれば揉め事を避けつつ適切なコミュニケーションが取れるのかを考えていきます。
まずは住所を把握する
相続人の存在が戸籍で確認できたら、次に必要なのは連絡先を知ることです。戸籍には本籍地が載っていますが、本籍地は身分関係を管理する情報であり、実際の居住地とは関係がありません。したがって、相続手続のためには現住所を特定しなければなりません。
この際に利用できるのが、戸籍の附票です。附票には、住民票を移動した履歴が記載されており、その情報をたどることで最新の住民票上の住所を知ることができます。ただし、必ずしもそこに住んでいるとは限りません。住民票を移さないまま引っ越す人もいますし、長期不在の可能性もあります。とはいえ、行政が保有する公的情報として得られる最も正確な出発点であり、まずは附票を取得することが基本です。
なお、相手が結婚や転籍により別の戸籍へ移動していることもあり、その場合はさらに情報をたどる必要があります。状況によっては、戸籍の取得申請を何度か繰り返し、住所履歴を丁寧に追跡していく作業が必要になるケースもあります。こうした地道な調査は手間がかかりますが、相手への適切なアプローチの前提となります。
住所を把握する作業は、相続専門の行政書士や弁護士に依頼することもできますが、自分で進めることも可能です。大切なのは、正式な手続によって情報を得るという姿勢です。後で「勝手に調べられた」「不当な方法で情報を入手した」などと疑念を抱かれれば、信頼関係の構築に悪影響を与えることになります。法的に正当な情報取得手続を踏むことは、後の協議を円滑に進めるための重要な一歩です。
手紙を出す
住所が分かったら、まずは書面で連絡をとります。突然訪問したり電話をするよりも、相手に考える時間を与え、心理的な負担を軽減できるため、手紙は最も穏やかなアプローチです。手紙には特定記録郵便を利用し、到達の有無を確認できる形にするのが望ましいです。内容証明郵便は法的な圧力を感じさせ、相手が身構えてしまう可能性が高いため、初回連絡には不向きです。
手紙には、相続が発生したこと、相続人として名前が確認されたこと、そして穏当に協議を進めたい旨を丁寧に記します。このとき、相手に対して謝辞を示す必要はありませんが、配慮ある言葉選びが重要です。特に「相続放棄をしてほしい」という意図がにじむと、相手は不信感を抱きかねません。あくまで「手続を進めるためご協力をお願いしたい」という姿勢を示すのが望ましいです。
連絡方法の選択肢として、電話番号やメールアドレスを併記しつつ、返信用封筒を同封するなど、相手が返答しやすい環境を整えることも有用です。また、手紙に「まず一度お話しできれば幸いです」といった柔らかい表現を用いることで、相手の心理的負担を減らせます。相続関係図や、簡単な遺産概要の資料を添付することで、状況を理解しやすくなる効果も期待できます。
最初のアプローチは、信頼関係構築の入口です。丁寧さ、透明性、誠実さを重視することで、スムーズな協議に繋がる可能性が高まります。
連絡がない場合は
手紙を送っても返答がない場合があります。受け取っていない、読む時間がない、応じる気持ちが湧かない、そもそも無視しているなど理由は様々ですが、放置していても遺産分割は進みません。この段階になったら、現地確認が必要になります。
住所地を訪問し、表札や郵便受け、洗濯物の有無などから居住の形跡を確認します。直接の接触は避け、あくまで所在調査に留めます。場合によっては、近隣住民に「郵便物をお届けしたが連絡が取れない」といった角度で情報を尋ねることも可能です。ただし、プライバシーには十分配慮し、事情を必要以上に開示しないことが重要です。
そこに実際に居住していると確認できれば、再度手紙を投函する、もしくは郵便受けにメモを残しておくなどの方法があります。それでも応じない場合、任意交渉は困難と判断できます。この段階で、家庭裁判所へ「遺産分割調停」の申立てを検討します。調停手続は、相手を出席させる強制力はありませんが、裁判所からの連絡には応じざるを得ない場合が多く、話し合いの場が整えられます。
一方、現地確認で相手の居住実態がないとわかった場合は、再度住民票附票の確認や、転居先の追跡が必要となります。民間調査の範囲を超える場合には、弁護士の協力を仰ぐことも選択肢です。焦らず、適切な法的手続に沿って進めることが、後のトラブル回避につながります。
望まれざる相続人であっても対応は誠実に
前妻の子や認知した子などに対し、「遺産を分けたいとは思えない」という気持ちを抱くことは珍しくありません。しかし、感情を理由に排除的な態度をとってしまうと、関係は悪化し、協議は難航します。不誠実な対応は、法的にも不利に働く場合があります。
相続分を隠す行為や、強引に相続放棄を迫る行為は、かえって相手の警戒心と対立を招きます。対等な相続人として接し、情報を丁寧に開示し、誠意ある説明をすることで、相手も安心して協議に参加しやすくなります。感情と権利は別問題であり、フェアな姿勢を崩さないことが重要です。
誠実な対応は、自分たちの利益を守るためでもあります。透明性を保ち、合理的な説明を重ねることで、仮に相手が不満を抱いたとしても、客観的に正当な行動を示せます。話し合いの場が前向きに進むことで、相続全体の時間や費用を抑え、精神的負担も軽減できます。結局、丁寧な対応こそが最も効率的であることは多いです。
相続は家族の歴史が交錯する場でもあり、感情も動きます。しかし、相手もまた被相続人と人生の一部を共有した存在です。誠実さと冷静さが、最終的には双方の最良の結果につながります。
まとめ
相続において思いがけない相続人が現れることは、決して特別な話ではありません。驚きや困惑、拒否感が生じるのは当然の感情です。しかし、相続手続は、法に基づき冷静に進める必要があります。戸籍で事実を確認し、住所を特定し、手紙で丁寧にコンタクトを取り、応じなければ現地確認や調停という手順を踏みます。これらの手順は、一つでも飛ばせば混乱や対立を生む要因になります。
最も大切なのは、望まれざる相続人に対しても誠実に対応する姿勢です。排除しようとする態度は不信と対立を生み、手続の長期化につながります。対等な相続人として尊重し、丁寧に説明し、協力を求めながら、冷静に合意形成を図ることが求められます。相続は財産を巡る法律問題であると同時に、家族の歴史を整理する過程でもあります。穏やかで誠実な対応を心がけながら、納得できる結論を目指すことが、最終的には最も良い結果を生みます。
当センターにはこうした想定外の相続人対応の相談が数多く寄せられています。相続人対応にお困りでしたら、当センターにお気軽にご相談ください。